横歩取りにおいて一般的には△3三角型がよく指されていますが、△4二玉型もあるのをご存知でしょうか?
最近では、2022-03-17 丸山忠久 九段 vs. 佐藤天彦 九段 第7期叡王戦 本戦において採用されています。
このようにプロ棋士の方も採用されている△4二玉型ですが、どのように指しこなせば良いのか調べてみました。
後手番横歩取り△4二玉型のテーマ図
後手番の研究なので盤面は後手目線で進めていきます。

こちらが後手番横歩取り△4二玉型のテーマ図になります。横歩取りでは定跡とされている△3三角とするところを△4二玉と指した局面です。△3三角型を見慣れている方であれば少し違和感があるかもしれません。相手の研究を外す意味でも△4二玉型を覚えて研究勝ちしましょう。
この局面から先手の候補手は、
- ▲5八玉(▲6八玉)
- ▲3六飛
- ▲2四飛
が先手の得を生かす意味で挙げられると思います。
他にも
- ▲8七歩打
- ▲2四歩打
などが考えられますが、これらの手は先手の得をあまり生かせていない手だと思うので今回は少し説明するだけで終わります。
▲8七歩打の場合は、先手は歩得を主張しているのにその歩を手放すのはあまり良い手ではないです。この手よりも歩得を主張できる手を先手は指してくると思います。△7六飛として後手は歩を回収できるので、より先手はこの手を選びにくいです。
▲2四歩は、ちょっとひねったような手の印象を受けますが、こちらも先手の歩を早々に手放してしまうので歩得を生かすなら指したくはない手だと思います。また、飛車の移動を制限しているので、後手が2筋に飛車をもっていった場合に2筋を歩で受けることができません。
よって今回は、開始局面から▲5八玉(▲6八玉)、▲3六玉、▲2四玉と指された場合の基本的な進め方・方針だけを紹介します。より深い手順については違う記事にまとめたいと思います。
共通の基本的な方針
それぞれの手に対する進め方を説明する前に基本的な方針について述べたいと思います。
- 1つめの方針としては、△3三角をわざわざ避けているので徹底的に△3三角を指さないようにします。△3三角しか有効手がない場合はしかたないとしてできるだけ避けます。
- 二つ目の方針としては、指しやすさを重視します。どう指せば良いのか、どのような狙いがあるのかをできるだけ明確な局面にもっていくことを重視します。
- 三つ目の方針としては、相手が先手が間違えやすい局面に持っていきます。できるだけ先手が対応を知っていないと指せない局面にもっていくことを重視します。
以上の方針に沿ってそれぞれの手に対する進め方を見ていきます。
テーマ図~▲5八玉(▲6八玉)
▲5八玉は青野流を目指した手です。▲6八玉は勇気流を目指した手になりますが、今回紹介する手順ではより後手が有利になります。

では、進めていきます。まず▲5八玉に対しては△7二銀とします。

この手は、金銀の連結を強化して後に飛車を渡すのでその時に備える意味と先手の出方を見る意味があります。出方を見るというのは、次に▲3六歩と進行すればだいたいが青野流に合流しますが、▲3六飛とされると他の変化となるのでそれに対応するために待つという意味です。
続いて▲3六歩に対しては△7四歩と進めます。

△7四の歩は取れない|罠に引っかかると?
この△7四歩に対して実は▲7四飛と歩を取れません。罠があります。
▲7四飛を咎める△7七歩打が鋭い一手です。

以下▲同桂、▲同金、▲同角、▲6八金、▲8七歩打など対応されますが、
- ▲同桂→△8七歩打が激痛
- ▲同金→△8七歩打▲8六金△8八歩成が激痛
- ▲同角→△8九飛成で桂得+飛車が成れたことで指しやすい
- ▲6八金→△8七飛成で無条件で飛車が成れて指しやすい
- ▲8七歩打→△7八歩成▲2二角成△同銀▲7八銀△8三飛で金得
これで有利になるので先手は安易に△7四歩は取れません。例外として▲9六歩が突かれている場合は、△7七歩打▲同桂とされてしまいます。(このような変化があるので、先手は△4二玉に対して▲9六歩と突いておく手も有力だと考えています。または、変化の途中で▲9六歩と突いておく手もあるので変化は多くなります。今回は▲9六歩の変化は多いので取り上げませんが、また機会があればまとめたいと思います。)
△7二銀を先に指す理由
また、先に△7四歩ではなく△7二銀としたのはなぜか疑問に思われる方もいるかもしれません。ですが、この手順でないといけない理由があります。
- 先に△7四歩とした場合は、▲3六飛△8四飛と進んだ時の後手の飛車の働きが横に利いていない(△7四歩が邪魔をしている)
- 先に△7二銀とした場合は、▲3六飛△8四飛と進んだ時の後手の飛車が2筋に回れる余地が残っている(先に△7二銀とすることで3六の地点に飛車がいくかどうかを見極めている)

△7四歩が邪魔をして飛車は2筋に回れない

△7四歩を突いていないので飛車が2筋に回れる
後に紹介しますが、▲3六飛に対しては△8四飛と下がって2筋に回る手を見せておきたいので△7二銀~△7四歩の順で進めます。
では戻って先手は▲3七桂と青野流の要である桂馬を活用させに来ました。

ここで青野流に対する面白い手順があります。
まずは△8八飛成とします。狙いはすぐわかります。以下▲同銀△5五角とします。

3七の桂取りと8八の銀取りからの二枚替えをかけることができました。
この局面が誘導したい一つの局面になります。
この時に先手玉が▲68玉だった場合(勇気流)は、より戦場となりそうな8筋に玉が近いことからより有効な手順となります。
さて、この局面先手は何が最善だと思いますか?青野流においては最善手以外は後手が有利になります。まさにこちらの狙いが分かりやすく相手にとって分かりにくい局面にもっていけています。
最善手が一目でわかる方はかなり全体が見えている方だと思います。3切れなどの短い考慮時間だと最善手を指すのは至難の技だと思います。
気になる方はこちらからご覧ください。
最善を指された場合の変化はこちら↓

最善手以外を指された場合の変化はこちら↓

テーマ図~▲3六飛
では、テーマ図に戻って▲3六飛と対応された時の変化を見ていきます。

まずは、飛車の働きを良くするために△8四飛とします。

この手は、後に2筋に飛車を動かして先手に歩を使わせる目的のためと△8六歩打の垂れ歩をする目的があります。垂れ歩に関しては、▲2二角成から受かるので先手はそこまで気にしません。
なので、飛車周りを防ぐために先手は▲2六飛としてくるのは自然な応手だと思います。

ここで狙いの一手があります。それが△2二角成▲同銀としてからの△4四角打です。

これは、▲3六飛と指された場合に誘導したい局面になります。
狙いは明確で▲2六飛取りと△8八角成からの強襲を見ています。
先手はどう対応するべきか分かりますか?
これらを受けるためには、▲2一飛成から攻め合いをする手、▲2八飛と引いておいて△8八角成を防ぐ手、▲6六角打として飛車取りにあてる手がありそうです。
続きはこちらの記事にまとめています。

テーマ図~▲2四飛
次は、テーマ図に戻って▲2四飛と指された場合を見ていきます。

この手は、△3三角型の場合は角の利きがあって生じない手です。
では、これに対する手を見ていきます。
工夫の一手|△1四歩
それが△1四歩です。

△7六飛としない理由
この△1四歩という手は、後手番横歩取り△4二玉の解説サイトを探してもあまり載っていない手だと思います。△1四歩にかえて△7六飛が恐らくは紹介されているのではないでしょうか?実際にソフト的にも△7六歩を最善手として示す場合が多いです。では、なぜ私は△7六歩ではなく△1四歩とするのかを説明したいと思います。
△1四歩にかえて△7六飛とした局面です。

この局面で先手は、後手に歩を使わせる目的で▲8四飛としてくるのが見えます。この▲8四飛は上記の局面で指さなければ、後手が△7四歩と歩を突くことで飛車周りを止めることができます(後手はその後に勇気流のように桂馬を活用する方針が分かりやすいです)。よって▲8四飛は指してくる方が多かった印象です。

ここで後手は、飛車成を防ぐために△8二歩打とします。以下先手の手は広いのですが、▲8三歩打△7四飛▲同飛というような手順があり得ます。▲8三歩打に対して△7二金もあり得る対応ですが、以下▲2二角成△同銀▲7七歩打△7四飛▲同飛とされます。
このように△7六飛からの変化は後に飛車交換になることが多々あり乱戦模様になることが多いです。
よって研究勝ちするためには、乱戦になりやすい△7六飛と指すのではなくこれから説明する△1四歩を指すことにしています。これは、好みの問題なのでそういう手もあるのだという感じでみていただければ幸いです。
△1四歩の意図
端歩の意図を全て言語化するのはかなり難しいですが(そもそも私も全て理解できていないです)、できる限りこの手の意図を言語化したいと思います。
△1四歩の意図をまとめると
- 無駄にならない手待ち
- 後に△3三桂と跳ねる変化があるのでその時に▲2三歩打とされる手を消している
- ▲1五角と打たれる筋を消している
になります。▲1五角と打たれる筋の一つとしては、△7六飛~△2六飛と回った時に打たれるような変化があります。このような手を消しているので▲2四飛の変化では△7六飛とする手が大丈夫(飛車交換しない変化にいくことができます)になります。
これら以外にも評価値的には理由があると思いますが、理由付けを行うとすればこのあたりが妥当だと思います。これらの理由を念頭に置いてこの後の変化を見ていきます。
分岐局面|分岐を覚えよう!

上図を分岐局面とします。
△1四歩に対する先手の対応は他の△4二玉からの変化に比べて手が広いです。
先手の応手としては、
- ▲2六飛
- ▲2八飛
- ▲5八玉
が考えられます。
それぞれ先手にとって意味のある手なので指してくる可能性があります。
分岐局面①|▲2六飛

まずは、▲2六飛と指された場合を見ていきます。
この手の意味としては、後手に7六の歩を取られないようにすることが挙げられます。
ここで△3三桂と跳ねます。

この手の意味としては、角交換を拒否することと△2五歩打から飛車を抑え込むことが挙げられます。
この後の方針としては、▲3六歩や▲4六歩を見て△2五歩打として飛車を抑え込みながら桂馬を活用することが考えられます。
分岐局面②|▲2八飛
少し戻って、次に▲2八飛と指された場合を見ていきます。

この手の意味としては、飛車を安定化させて角交換しやすくしていることが挙げられます。
ここで後手は△7六飛として歩を取り取るのが意味として分かりやすいですが、以下▲2二角成△同銀▲8三角打とされた時に6一の金取りと▲5六角成とされるのが五角だと思いますが気になります。

そこで後手は、△7六飛とする前に△5二玉として金に紐をつけておきます。

これに対して先手は、後手からの△7六飛が見えているので守りを固める意味でも▲6八玉とするのがあり得る手だと思います。他にも▲5八玉が考えられますが、大体の手に対しては後手は次に△7六飛として大丈夫です。

以下▲3八銀として陣形を整える手に対しては△3三桂とします。これは、桂馬の活用と△2五歩から先手の飛車を押し込む狙いを見ています。

後手番なので攻める展開に持ち込めているので成功と言えるのではないでしょうか。ここからの方針としては、5七の地点を攻めたり2筋を逆襲したりしていくことが考えられます。
分岐局面③|▲5八玉
分岐点に戻って、次にバランス良く▲5八玉と指された場合を見ていきます。

こちらの場合でも後に▲8三角打とされる手があるので△5二玉とします。

ここから変化としては、▲2二角成からの変化が怖いところです。

受けが上手くなれるようにこの機会に覚えましょう。
以下△同銀▲7七角打とされます。

これに対しては、△8二飛と引いても2二の銀に紐はつかないので△8九飛成と攻め合います。先手も▲2二角成と攻め合ってきます。

ここでかなり重要な一手があります。それが△1五角打です。

先手が▲2五飛とした場合は、△3三桂が好手で▲3二馬なら△2五桂として飛車を取れます。
▲8九馬としてきた場合は、△2四角として飛車を取ってから△8六桂打が攻めに転じることができます。
このように怖い変化がありますが、十分に五角に戦えると思います。
最後に
今回紹介した横歩取り△4二玉戦法は面白い手順がたくさんあります。
個人的に気に入っているのは、▲5八玉△7二銀▲3六歩△7四歩▲3七桂△8八飛成▲同銀△5五角の変化です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。